2007-04-14

Optimal-f

勝率5割、勝てば掛け金に加えてその2倍が戻ってくる、一方負けると掛け金没収というゲームを考えます。例えば100円持っているときに全額賭けると、勝てば所持金は300円になり、負けると0円になります。

さて、所持金のうちどれくらい賭ければよいでしょうか?所持金に対する掛け金の割合をfとして(0≦f≦1)、fを求めましょう。

解1
f賭けたときに戻ってくる金額の期待値は、3f/2+0/2=1.5f。期待値で考えると有利な賭けなので全額賭ける。つまりf=1。
確かに賭けるたびに期待値は1.5倍になります。勝った時に所持金3倍、勝つ確率1/2ですから。しかし、例えば10回賭けた後の所持金の確率分布が
310=59049倍になる確率は1/210=1/1024、その他の場合は所持金なし。期待値は1.510
となります。折角有利な賭けなのに、大半の場合所持金なし、というのは勿体無いです。
解2
f賭けると、勝った時の所持金は1+2f倍に、負けたときの所持金は1-f倍になります。それぞれ確率1/2ですので、2回賭けて一回勝ち、一回負けになった場合を考えると所持金は(1+2f)(1-f)倍になりますから、これが最大になるfを求めるとf=1/4となります。このように、発生確率と同じ比率で事象が起きた場合に所持金が最大になるfが狭義のOptimal-f、あるいはKelly基準です。
たった2回では2連勝、2連敗になる確率も高いですが、例えば100回なら50勝50敗から大きく外れる確率は小さいです。50勝50敗の場合は(1+2f)50(1-f)50={(1+2f)(1-f)}50の中括弧の中を最大にする、というのがKelly基準の考え方です。
解3
Kelly基準は一般に賭けすぎと言われます。それは、回数が少ない場合は、勝ち数、負け数の比率が発生確率と大きく異なることも珍しくなく、特に負けが多くなったときの損が大きくなるからです。
よって、連続して賭けた時の所持金の確率分布を求め、その期待値だけを見たのでは解1と同じになりますので、期待値より下にぶれた値、例えば期待値-1×標準偏差が最大になるfを採用する、と考えます。
期待値は賭ける回数のべき乗で、標準偏差は賭ける回数の平方根のべき乗で増えますから、賭ける回数が少ない場合は標準偏差を引いてもなお大きな値になるためにはfを小さくする必要があり、賭ける回数に応じた最適なfを見つけることが出来ます。
但し実際には畳み込みの計算が大変なので、様々なfに対してモンテカルロ・シミュレーションを行ってfを探すことになります。
このように、最適なfの値を探すのは容易ではないのですが、もしも賭けを平行して同時にいくつも出来るのならば、fを探すことなく解1の期待値1.5倍を得ることが出来ます。
100の賭けが平行して行われているとしましょう。100円の所持金を1円ずつ100個の賭けに投じるのです。するとおそらく50前後は勝って3円に、残りは負けて0円になりますので、所持金は高い確率で150円前後になります。勝った3円をそのままもう一度賭けようとすると50しか賭けが出来ませんので、負けたところにも再配分して、2円を賭けるものと、1円を賭けるもの、あわせて今回も100賭けます。これを繰り返すことで、解1と同様の期待値を得ながら、0円になる確率を大幅に引き下げることが出来ます。当然ながら59049倍になる確率も殆どゼロですが。

これも実際には100もの賭けを同時に行うことは出来ないので、10円ずつ10の賭けを行うことにすると、今度は150円以外にも120円とか180円になる確率もそれなりに高くなります。ここで解2や解3の方法で最適なfを決めるのですが、元々充分に分割してかけていた場合はf=1が最適になることが多いです。

結局のところ、Optimal-fの考え方は、fの値を求めることそのものよりも、

  • 有利な賭けだからといって必ずしもf=1が良いとは限らない。最適なfはもっと小さい場合がある。
  • 賭けを分散することにより、期待値に近い結果を得ることが出来る。
ことを教えてくれるという意味で有益だと思います。

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