1.通貨価値の下落は、預金者から事業者への支援である。
2.現在の日本経済では、日銀に残された選択肢は、国債を買うか買わないかではなく、自発的に量的緩和のために買うか、買わざるを得ない状況になって仕方なく買うか、しかない。
堀古英司氏の問題先送り第二弾、為替介入(米国債購入)vs 日本国債購入、口先介入も、非不胎化介入も、為替介入は愚策などを読みながら、twitter上での議論も含めて思ったことをまとめておきます。
事業を起こす場合、設備投資にしろ仕入れにしろ従業員の雇用契約にしろ、出ていく金額の多くは先に決まり、入る金額は後で決まります。(だからこそリスクなわけで、入る金額も先に決まっていたらリスクはありません)。ですから、出ていく金額が決まってから入る金額が決まる間に通貨価値が下がった方が事業を起こす側にとっては得で、貯蓄する者から事業者への利益移転とも言えます。通貨価値が下がる時は多少下手でも事業に挑戦した方が良いし、逆に通貨価値が上がるときは事業なんかせずに預金したまま寝ておいた方が有利です。
通貨価値が下がればそれまでに蓄えたお金で買えるものが減るわけで、事業を起こすのもそこで働くのも何かを買うためのお金を得るため、と考えれば事業のために通貨価値を下げるのは本末転倒なのですが、事業なんかせずに預金した方が良い社会では、今持っているお金で買うことは出来ても、今後お金が入ってこなくなりますので、優先順位としては「今持っているお金の購買力」よりも「事業のやりやすさ」が優先されることになります。日本の為替介入も、中国がなかなか対米ドルで為替を切り上げないのも、アメリカがマネーサプライを増やす一方で他国の通貨切り下げのための介入を批判するのも同じです。アメリカの景気が良かった頃、貿易赤字を垂れ流しつつ各国から輸入していた時、売ってあげてる国より借金しているアメリカの方が態度が大きく、各国が競って安く輸出したのも「今買うことよりお金を稼ぐ事業が大事」だからですし、中国が内需に力を入れるのも、国民の生活向上だけでなく(それだけならさっさと人民元を大幅切り上げした方が良い)、国内産業が海外の影響を受けにくくするためです。
ではどうやって通貨価値を下げるか?マネーサプライに比例してインフレになるわけではなく、デフレ下ではマネーサプライを増やしてもインフレにならず、一旦インフレになると制御できずにハイパーインフレになるという説を否定はできません。しかし為替のように売買に要するコストも時間もほとんどかからない市場は需要と供給で決まるので、自国通貨安になり自国の労働力、生産設備を外貨換算で安くすることは出来ます。実際にこれをやっているのが今のアメリカで、逆に日本円の供給を緩めないまま為替介入で円安にするのは無理です。
デメリットは?インフレを制御できるという説の根拠には完全には同意できませんのでデメリットがないとは言いません。しかし大事なのは、量的緩和をしなかった場合と比べてどちらのデメリットが大きいかの比較だと思います。現在の日本は、景気が悪いので国債残高が増え、景気が悪いので資金需要がなく金利が低いので国債を発行できる、という悪い均衡にあります。永遠にこの均衡に居られるか、あるいは均衡から外れる時にどうなるか、を考えてみましょう。
今の景気の悪さが続く場合、民間の国債購入余力は増えませんので、具体的にどれくらい余力があるかは諸説ありますが、増えない限りいつかは国債残高が超えます。超えた場合に日銀が国債を直接引き受けずに国債を発行するには外国に買ってもらうしかないですが、こんな悪い均衡にある国の、既に沢山発行された国債を買ってもらうには相当に高い金利にする必要がありますし、そうなるとさらに国債残高が急増します。
景気が良くなれば税収は増え、景気対策も減らせるので国債の新規発行は減らせますが、景気が良くなれば民間の資金需要が増えて金利が上がりますので、既存の国債を借り換える際に高い金利で発行しなければなりません。民間の資金需要が高まる中で金利上昇による国債増加要因が「税収増加+景気対策減少」による国債減少要因を超えないためには日銀が既発債を買い支えるしかなく、これでは「景気が良くなってから量的緩和」というちぐはぐなことになってしまいます。
私が挙げたどの場合も日銀は大量に国債を買わざるを得なくなり、これ以外のシナリオもありえますがそれでも日銀が大量に買わずにすむシナリオは楽観的を通り越してかなり虫のよいシナリオを想定する必要があります。市場から「買わざるを得ない状況に追い込まれたので買った」と見透かされるよりは、今「アメリカのように量的緩和のために買った」の方がまだ市場の信用を失わずに済むと思います。
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